古代中国のジャイロスコープ 800年の歴史を持つ奇跡のランタン「滾灯」の秘密

古代中国の四大発明と言えば、紙、印刷術、火薬、羅針盤だが、この他にも後世に伝わる偉大な発明は数多く存在する。その一つが「古代中国のジャイロスコープ」と呼ばれる奇跡のランタン「滾灯(グンドン)」だ。滾灯の起源は南宋時代にまで遡ることができ、800年余りの歴史を持つと言われる。

転がしても火が消えない「滾灯」、その仕組みは?

滾灯は竹ひごを組んで作った円形のランタンで、投げられ、転がされ、逆さまになっても、その中心に置かれたロウソクは常に立った状態で、炎は決して消えることがない。主に浙江省や上海市で広く親しまれており、実用性を備えた単なる美しいランタンにとどまらず、アクロバティックな舞踊と一体となったパフォーマンスアートという点でも高い芸術性を持っている。

まず、投げたり転がしたりしても中の火が消えない滾灯は、いったいどんな構造になっているのか見てみよう。滾灯は、竹ひごで編まれた大小2つの球体から成る入れ子構造になっており、内側にある小さな球体が、外側の大きな球体の中心に、6本の針金で均等に吊るされている。

火が消えない秘密は、小さな球体の内部にある大小2つの鉄の輪と、ロウソク立てを兼ねた重り(鉄砣)にある。この重りと鉄の輪が自由な回転を許すことで外側の激しい動きを打ち消し、常に燭台が水平に保たれ炎を守るのだ。その仕組みはジャイロスコープそのものであり、まさに「古代中国のジャイロスコープ」なのだ。

匠の技と素材が支える「不滅の灯」

ジャイロスコープの仕組みを活かすには、精密な設計と確かな技術が欠かせない。また、良質な素材を用いることも安定した性能を発揮する上で重要だ。そこで、滾灯には日当たりの良い緩やかな斜面で育った、生育5年以上で直径7〜8センチ以上の良質な「毛竹」のみが材料として用いられる。良い素材と匠の技が相まって「奇跡のランタン」が生まれるのだ。

伝統の昇華 命が宿る「舞踊芸術」へ

古代に発明された滾灯は、長い歴史を経て舞踊芸術へと昇華していった。演者は直径50センチから1メートルにもなる滾灯を、手で押し、足で蹴り、肩に担ぎ、頭に乗せるなど、全身を使って巧みに操る。そして、滾灯パフォーマンスの真骨頂は夜の演舞にある。暗闇の中、揺れ動く灯りが幻想的な光の軌跡を描き出す様子は息をのむほどの美しさで、滾灯から放たれる光にはまるで生命が宿っているかのように見える。

滾灯のパフォーマンスには「金猴嬉球(猿が球と戯れる)」、「白鶴生蛋(鶴が卵を産む)」、そして「蜘蛛放絲(蜘蛛が糸を放つ)」など、動物の動きにちなんだ名を付した技が多く存在するという点からも、滾灯が「生き物」として捉えられてきたことがうかがえる。

消えることなく灯り続ける伝統文化の炎

滾灯は主に浙江省杭州市の「余杭滾灯」と、海塩県の「海塩滾灯」が有名で、近代化の波の中で、この貴重な伝統は一時は失われかける危機にあった。しかし伝統文化を守る機運の高まりに伴い、2006年には「余杭滾灯」が、08年には「海塩滾灯」が中国の第1次国家級無形文化遺産リストに登録された(「海塩滾灯」は拡張項目として登録)。08年に開かれた北京五輪でも滾灯のパフォーマンスが披露され、世界の人々を魅了した。

現在では、地域の保存団体による伝承活動だけでなく、学校教育にも積極的に取り入れられ、新しい世代への継承活動が活発に行われている。投げられ、転がされても決して消えることのない滾灯の炎は、800年の時を超え、文化の灯として未来へと受け継がれていくことだろう。

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